【講演】自己株式の相続人等からの取得について(名古屋東ロータリークラブ)
名古屋経済大学法学部 准教授 川上博英氏
昭和41年にいわゆる株式譲渡制限に関する法律がつくられるまでは、株式は自由譲渡、誰に渡してもいいということでした。
会社の経営者にとっては自社の株式が自分の知らない人に転々と譲渡され、会社の経営に友好的で協力的な方が株主の場合は経営がやりやすいですが、そうでない方が株主になった場合は困ったことが起きてしまいます。
それを防ぐために生れたのがこの法律で、制限譲渡株式を譲渡するためには取締役会の承認が必要になりました。
ただ、この法律には問題がありまして、亡くなった人の財産に株式が含まれていて、それを相続した場合、譲渡制限の定めが適用されません。すると、父親は会社の経営に友好的で頼りになる方でしたが、その相続人の子供たちの中に会社にとって不都合な人が含まれていると困ったことになります。
そこで、何度かの改正を経て、新会社法には相続によって相続人が取得した株式に関して2つ規定されました。
1つ目は、合意による相続人からの相続株式取得、もう一つは会社が相続人に対して株式を売り渡せと請求することができる規定です。
1つ目の合意による買い取りの場合、全株式に譲渡制限をしている会社においては、相続人が相続株式を取得した場合は、会社が合意によってその株式を買うことができます。
かつての商法では、この場合、追加請求権といって、他の株主も会社に買取請求することができましたが、会社法ではそれを排除できるようになりました。
しかし、それを規定する条文の解釈に疑義があることがわかりました。
たとえば、176条では、売渡し請求ができるのは相続等が「あったことを知った日から」1年となっていて、これを経過すると請求ができなくなります。株主が多数いる会社は、株主が亡くなったことを、いつ取締役は知ることができるのでしょうか。まったく知ることができない場合もあるかもしれません。
このように解釈上の疑義のある法律ですが、会社法施行から間もない平成19年の中小企業庁の調査では、相続人に対する売渡請求制度について、既に導入した企業が4.1%、今後導入する予定の企業が7.1%でした。何と、施行されて間もないときに、11%もの企業が定款変更をしようとしていました。
皆様の会社でも十分な株主対策、あるいは事業承継に関する方針を立てていただきたいと思います。