【講演】地域ケア研究推進センターでの研究(名古屋名南ロータリークラブ)


20120925_nagoyameinan_1.JPG元米山奨学生 キム・ウォンギョンさん

こんばんは。去年1年間、米山奨学生として奨学金をいただきましたキム・ウォンギョンです。
この3月に無事に博士号として卒業し、4月からは名古屋にある日本福祉大学の大学院のキャンパスにある「地域ケア研究推進センター」というところで研究員として働き始めました。主に、この研究センターでどういう研究をしているのかを今日は皆さまにお話したいと思います。
現在、このセンターの中で関わっている主な研究内容は大きく分けて3つあります。1つめは『権利擁護支援システム』で、「成年後見制度」という言葉をよく耳にすると思いますが、成年後見制度だけでなくもう少し広い範囲・広い意味で、その人の日常生活全般を福祉的または法律的な支援で支えていくことを「権利擁護支援」と言っています。
日本福祉大学では4月から「権利擁護支援研究センター」が新しく出来まして、社会に貢献することを目的に立ち上げたセンターです。
私の所属は「地域ケア研究推進センター」ですが、同じ部屋の中に出来た事で一緒に権利擁護支援研究センターの仕事もしています。今まで日本福祉大学で権利擁護に関する研究をやってこなかったので、既に先進的な活動をしていらっしゃる弁護士の先生や、社会福祉関係の従事者の皆さまをお呼びして、毎月1回大学で研究会をやっています。
例えば、日本では高所得の方の為の成年後見制度もやっていますが、それ以外にも低所得の生活保障を受けている方でも歳が進むにつれ、認知症などでお金の管理が出来ない方のために権利擁護の活動をやっている方もいます。そういう団体を総括的にまとめている「PASネット(権利擁護支援ネットワーク)」という団体があるのですが、そこの団体の方と法政大学の法律家の教授でもあり弁護士としても活動している佐藤先生という方も一緒に活動をしています。
今の日本の権利擁護支援の活動がどのように行われているか、その実態を学びつつ、他の地域でもこのような先進的な実践をやっていきたい時に、法律家の人と福祉の人がどのように手を結んでやっていけば上手く支援できるかというプロセス構築の為の調査活動をやっているところです。最終的には、「政府に政策提言が出来れば・・・」ということをゴールにして研究会を進めているところです。
また、もう1点、韓国でも来年の7月から成年後見制度が始まるので、それに向けて日本の先進的な事例と日本で失敗した点などを韓国に伝えていくことを目的としてやっています。
2つめは、『小規模事業所向けの人材養成・人材育成』で、実践的な側面と研究的な側面の両方がありますが、グループホームなどの少人数のところは、その中で働いている人の為の人材育成をする方法を身に付けていない管理者が多くいたり、人材を育成していきたくてもお金がなかったり、時間がなかったり・・・で、三重県庁でももう少し質の高いサービスを地域の住民に提供するためには、まず小規模事業所の皆さまの質を高めていく必要があるとのことで、三重県庁から日本福祉大学に依頼があり、私がメインで担当しています。そこでは主に、小規模事業所の管理者や中間管理者の皆さまに自分の事業所のパートさん達にどのような研修会を行えばいいのか・・・という研究会を行ったり、接遇やマナーなどを他の地域から講師の方を呼んで研修の機会を設けたりしています。現場で聞いた幾つかの悩みを今後どのように研究につなげていけばいいかを考えながら1年間この事業をやっています。
3つめに、『中山間地域への福祉政策』です。高知県庁から委託され、共同で様々な事をしています。
現場で役立つ実践的な研究をメインに、国に政策提言をすることを目標にしています。今、高知県庁が最も悩んでいることは全国に先行して過疎化・高齢化が進行していることです。
特に、山間部をはじめとする過疎地域では、人口の現象と高齢化がとても進んでいて、高知県内の自治体とどのように協力し合いながら住民の為のサービスを提供していけばいいか・・・と高知県庁は頭を抱えています。
高知県の高齢化率を見ると、全国で3位になっています。2009年時点の調査結果ですが、高知県平均が全国よりも5%程高い25%となっています。また、一般世帯に占める高齢者の単身世帯の割合を見ると、全国で2位となっていて12.7%となっています。
つまり、一人で住んでいる高齢者の方が過疎地域でどんどん増えているので、どのように支えていったらいいのかというのも課題になっています。
高知県の中で特に高齢者率の高い市町村を4つ挙げていますが、大豊町の場合は52.1%で半分以上が高齢者になっています。それに対して出生数を見ると、昭和35年には12,663人子供が産まれていたのに、平成17年には5,916人とぐんと減っているのが分かります。出生率も47都道府県中43位なので、とても低いです。
高知県内での人口の減少率が高い市町村を見ますと、大川村や北川村などがあります。このような地域でホームヘルパーなど介護保険制度を利用しようとしても、中山間地域には民間の事業所は入ってきません。それは、家同士が離れているので移動に時間が掛かり、複数軒回れないので採算がとれないのです。市町村がやっている「社会福祉協議会」が事業所を設けてやるしかないのですが、結局、市町村の赤字につながり、高知県庁の大きな悩みでした。
そこで、大学と一緒に調査・研究をして、1軒あたりの移動コストがどのぐらいかを調べてデータを国に提出したら、国もこうした中山間地域のようなところには全国一律ではなく、地域の特徴を認めるべきだと理解してくれたので、今はその制度が改定されて中山間地域では移動に掛かる時間も制度の中でお金として出るようになっています。
それにしても、なかなか民間の事業所が入ることは期待できませんが、社会福祉協議会がやっている事業所が少しでも赤字から脱出できるようになってきているということが一つの成果と言えます。
全国一律のサービスでは不十分で、それが適切とは言いにくいです。
「中山間地域の事情に沿った支え合いの仕組みが必要」と高知県としても強く思っていて、その為の対策を幾つか出しました。その一つとして、高知県庁の中に「地域福祉部」が創設されました。「住み慣れた地域で、共に支え合いながら生き生きと暮らすことができる持続可能な地域づくり」を目指して作られました。
全国の都道府県の県庁には「地域福祉部」が設置されていたところは少なく、高知県で先進的にやっていても、他の中山間地域を抱える都道府県では高知県で実際に何をやっているのか情報が伝わらない事がいっぱいあります。何故かというと、厚労省で集まる部長会議に地域福祉部は他の都道府県にはないので、部長会議がありません。高知県庁は早めに「地域福祉部」を設けて様々な活動をやっていることは、国内でも評価されているところです。
地域福祉部で具体的に出した対策の一つとして、『ふるさと雇用再生「あったかふれあいセンター」推進事業費補助金』を作りました。中山間地域は高齢化が進んでいるのに若い人が産まれない、若い人の職がなく都市へ出てしまっているので、若い人へ職を与え、高齢者だけの施設ではなく障害者や子供、赤ちゃんを抱えているママの為の施設・・・と対象者別に施設を作るとお金が掛かりすぎて大変なので、誰でもみんな一緒に利用できる施設を作りましょうということで、その名称を「あったかふれあいセンター」として今、作っています。
この「あったかふれあいセンター」は、官民共同でやることを目的としていて、地域住民の交流の場、また支え合いの拠点となる事を目指しています。高齢者だけでなく子供やその親、また若者や障害者などが一緒に利用できるように、高知県内10箇所に作りました。四万十市では、とても若いスタッフが10人以上その中で雇用されて、新しい職が生まれたと言う意味でもよかったですし、地域の子供や高齢者が同じ場所で一緒に触れ合う機会を与えられたということでも評価されています。ここは、地域のボランティアの方や自治会、民生児童委員や市町村社協など地域の色々な方が一緒に支え合いながら活動していく場として作った所です。
私が現在入っているフィールドは、北川村と四万十市というところです。調査地域の一つの四万十市の西土佐の大宮地区は8月に調査に行ったのですが、以前はもう少し人口も多くて小学生も沢山いましたが、既に小学校が閉鎖されていました。
高知県では「あったかふれあいセンター」という名前を出していますが、「NPO」という非営利組織がやる場合、西土佐では「NPOいちいの郷」というところが運営しています。夜は、地域の皆さまと宴会をやりながら地域のことを聞いたり、このセンターが出来たことでの利点等を聞いたりします。NPOをやっている担当の方は「あったかふれあいセンターの効果を今すぐ見せられるデータは出しにくいが、高齢者の方の笑顔が戻った」と言っています。
これは北川村へ行った時のものですが、北川村では「あったかふれあいセンター」とは別に体育館にサテライトを作っていて、70・80・90代の方も歩いて20分〜30分かけて自分の足で歩いて通える場を作り、自分達で集まり自分達で椅子を用意して、テレビに映像を流しながら足の運動を1時間ぐらいみんなでやって、終わってからみんなでお茶をしてお話をする・・・という通いの場になっていました。
なかなかデータ化することが出来ませんが、このセンターが地域の方にとってどのような効果があるかという調査を進めているところです。
今年の10月に社会福祉学会が神戸・西宮の関西学院大学で行われるのですが、そのメインテーマが「日本社会の再生と社会福祉学の役割」〜人・地域・制度のつながりにおける社会福祉の領域と境界〜となっています。私はこれらの活動以外にも日・韓社会福祉学分野での交流活動支援・コーディネートなどもやっています。
日本と韓国の社会福祉学会同士では協定を結んでいて、春は日本から韓国の学会へ行き、秋は韓国から日本へ役員の皆さまを始め、10数名の方がお互いに行き来しています。その際の事務局の役割もしていますし、毎年韓国と日本でシンポジウムを開いているのでその中の通訳もやっています。
そして、日・韓の社会福祉学会者間の交流や、韓国の大学生・大学院生が日本の福祉施設や行政の見学に来ていて、通訳をしたりしています。
以上となります。ありがとうございました。

LinkIcon詳しくは、名古屋名南ロータリークラブまで