【講演】なぜ、環境教育が大切か(豊橋北ロータリークラブ)
NPO法人 穂の国森づくりの会 事務局長 森田実様
皆さん、こんにちは。穂の国森づくりの会事務局長の森田実です。
今日は穂の国森づくりの会の行っている環境教育の話を中心にお話したいと思いますが、最初に穂の国森づくりの会について簡単に説明いたします。
東三河では東栄町を中心に、大正時代から植林が進んでいましたが、主に第二次世界大戦後に植林をされた森が多く、非常に新しい森ということになります。杉と檜の人工林が76%、天然林が23%という構成になっています。全国でもトップクラスの人工林の比率で、有名な吉野林業地帯や天竜の林業地帯に引けを取らない位の人工林率です。
こちらは設楽町の岩古谷山という山の頂上から東栄町の方を撮影したものです。空から見ると緑豊かな綺麗な森に見えます。
中に入ると、晴天の昼間でも真っ暗です。地面に光が届かないので、檜以外の植物が生えてないという状態になっています。
このような森が沢山広がっているというのが今の東三河地域の人工林の現状です。また、手入れが遅れているために、雨が降った時に土が流されたり、風が吹いたときに木が倒れたりしたまま、ひどい状態になっている森が最近では多く見られるようになって来ました。
このような森が増えて荒廃が進んでいくと、森林の多面的機能、公益的機能が低下します。例えば、水源涵養、地球温暖化に関わるCO2 の固定化の機能、産地災害の緩和、生物多様性などです。そしてやはり景観が良くないということも挙げられます。森林が持っている私達が生活する為に役立つ機能が失われつつあるというのが現状です。
そのような状況を受け、1997 年に任意団体として穂の国森づくりの会は設立され、2000 年にはNPO法人となり、現在に至ります。市民団体ですが、市民だけで無く、地元の企業や行政と連携し、森を保全するために活動しようという団体です。
続いて具体的な事業について説明します。まず1つは、森づくり、森林整理になります。会員の中で、特に森林整理を行いたいという方々を中心に、週2 回ペースで森林整備に入っています。冬場は手入れの遅れた森の木を間引く、いわゆる間伐により、明るく綺麗な森を作るという作業、夏場は広葉樹の新しい森を育てるための作業を行っています。現在は、設楽町の段戸湖と豊橋の石巻山近くで活動しております。
その他、啓発活動として、森林整備体験、自然観察会、セミナーや講演などを行っています。このような、市民の皆さんに今の東三河の森林の現状を知ってもらうための活動を、積極的に行っております。
また、政策提言として1999 年に「穂の国森づくりプラン」を発表しました。その中に3 つの大きなプランがあります。
1 つ目は森林整備基金の創設。水道料金1 トンにつき1 円を森林整備に使おうというものです。こちらは平成17 年よりこの地域で実現しており、年間約8,000 万円が使われています。
2 つ目は「穂の国森林祭」。2005 年の愛知万博に合わせ、東三河地域を森林を通じてPRしていこうという事業です。これも愛知万博の地域連携プロジェクト事業の最大規模の事業として実現しました。
3 つ目は「森林情報センター」ですが、こちらはまだ実現をしていないプランで、少し込み入った話になりますので、今回は紹介のみとさせていただきます。
また、最近力を入れているのが「企業の森づくり支援」です。CSR、つまり企業の社会的責任として、企業や団体が森林整備や環境活動を始めるという動きが盛んになっています。穂の国森づくりの会には企業会員も多く所属していますので、そのような活動のお手伝いをしています。例えば、森林整備の活動をしたいという企業に対して、その作業指導、森づくりの計画等についてお手伝いしたり、環境教育に非常に力を入れている企業には、森林環境教育のプログラムの方をうちの方で企画・提案させていただいたりしています。現在、年間20 社位お手伝いしています。
それでは本題に入ります。環境教育活動として森づくりの会では、東三河地域限定ではありますが、小学校5 年生を対象に訪問授業を行っています。この活動は、「訪問授業」、実際に学校に行って授業をするという事業と、子供達を山に招待し、実際に様々なことを体験することから学ぶ「野外体験授業」の2本立てになっています。
訪問授業は、一番多い時、平成15 年には年間約50 校、東三河地域の小学校、北は豊根村から南は渥美半島の先端まで授業を行っていました。現在は年間数校程度となっていますが、継続して実施をしております。実際の授業は、初めに森の持つ公益的機能について説明し、続いて県の林務課や農政課の方に地元の森の現状について説明していただき、最後にその森を守るために地元で採れた木材を使用していく必要があるということを話す、という3 本立てで展開しています。
野外体験授業は、年間約10 校を山に招待して実施をしていましたが、現在は豊川市の小学校5 年生が野外体験活動で、設楽町の「きららの里」に宿泊する時に、その隣にある「きららの森」というとても綺麗な原生林を案内することが中心となっています。実際に山に行き、植林や間伐を体験したり、自然観察なども行っています。
なぜ子どもの頃からの環境教育が非常に大切なのかというと、環境教育に限らず子どもの頃の体験というのは、やはり一生心に残っているものです。皆様にも経験があると思います。私は徳島の出身で、子どもの頃は山を駆け巡り、川で釣りをして遊び回っていました。そのような経験というのは、記憶に残っているのは勿論、体にも残っているというのが凄く大きい事だと思います。私もこのような仕事をするとは全く思っていなかったので、この仕事を始めて実際に山に行った時、ちゃんと動き回れるかどうか不安でしたが、小さい頃、山で遊びまわっていましたので、体が勝手に動くということがありました。やはり子どもの頃の体験というのは、非常に重要だと思います。
現在、私は母校の愛知大学の短期大学部で、環境についての授業をしています。80 人くらいの受講生がいますが、その中に「昔先生と一緒に山に行って授業を受け、その時の体験が凄く心に残っているし、体に今でも染み付いて残っている」と言ってくれた女子大生がいました。試験では彼女の点数はずば抜けてですね優秀でした。山についてのことも出題したのですが、的確に答えていました。やはり子どもの頃の体験というのは非常に重要だと言えると思います。
また、価値観の形成ということもあります。人の価値観の形成というのは、やはり子どもの頃に受けた教育が強く影響すると思います。ただし、このような価値観の形成が、デメリットとして影響している場合もあります。これについては後ほど少しお話したいと思っています。
そしてもう一つ、大人になると日々の生活に追われ、勉強する機会が減ってしまうということもあります。やはり子どもの頃、勉強できる時期に、環境教育も含め、勉強しておくということが、非常に大切だと思います。少し話はずれますが、森で遊び回ると良いことがあります。協調性、危険を察知する能力、運動能力が非常に向上するということが、科学的に証明をされています。森で遊び回る森林環境教育を受けることは、お子さんの成長にもとても重要だということが解ります。
日本人は山というと森林を想像します。更に子ども達は森林というと自然の森を想像します。私達が授業で「山の手入れが大切で木を切る事が大切だ」と言うと、子ども達から「木は切ってはいけない」という話が出ます。この「木は切ってはいけない」というのは、日本の自然の森に対するイメージから生じているのではないかと思います。日本には豊かな自然の森林ががあり、それが開発によって壊されている、という構図です。
これは、今の小中学生の親の世代が受けた教育に強く影響を受けているものだと思います。
昔の日本には、豊かな里山があったとよく言われていますが、実はそれは正しくありません。最近、自分の子どもの頃の山の風景をよく思い出してみるのですが、祖父がワラビを採っている時に、私自身はふた山越えた所で遊んでいました。それだけ離れていても、祖父は私を自由に遊ばせていました。なぜかというと、それは私が見えていたからです。つまり。昔はそれ程豊かな森が山には無かったということです。
実際にはそのような状況だったのですが、先程説明したような構図で教育がされてきており、更にそこに共生や共存という言葉が混ざってきて、昔は豊かな自然林があったという幻想が生じました。私達が「森林整備することは大切です」と言ってもなかなか通じない障害の1 つになっているといると思います。
今広がっている緑が、自然のものではなく、私達の先祖、先人が作ってきた森だということが、子ども達も、その親である世代にも理解されていないので、私達が学校に行って授業をしても、森林整備の大切さを理解をしてもらうのはなかなか難しい現状になっています。
昔は山に森が無く、はげ山だったということが分かる童謡の歌詞があります。「うさぎ追いし かの山」です。山でウサギを追うのは、木が無い所でないと無理です。この歌詞について、子ども達が「うさぎ追いし 遭難」と替え歌していましたが、これは実は今の森の現状を的確に物語っていると言えます。現在の森は入って行くと本当に遭難します。豊橋でも子どもが森で遭難したという事件がありました。今は手入れが遅れて鬱蒼とした森であるために、森に近づくこともできなくなっています。以前、豊根村で訪問授業をした時のことですが、周りにスギやヒノキの森があるので、森でよく遊んでいるのだろうと思
い子ども達に訊いたところ、「森では遊ばない」という答えが返ってきました。親が森に入る事を禁止しているそうです。手入れが遅れて鬱蒼としているので、子どもが山の中に入って行くと遭難してしまったり、管理ができないから困るという状況になってしまっています。現在、環境教育として使うことができる場所が無くなってきているというのも、非常に問題になっています。
最後になりますが、皆さんはESDという言葉をご存知でしょうか。Education for Sustainable Development の略です。日本語に訳すと「持続可能な開発の為の教育」です。2014 年にはこのテーマでユネスコの世界会議が名古屋で開催されます。私達がこれから子ども達を教育していくにあたり、このような言葉が重要になってくると思います。
日本は近世以降、荒廃した山々が広がっていました。私の先祖によって森が作られ、現在では緑が蘇ってきています。しかしその森は、まだ完成形ではありません。人の手を入れることが必要だということを伝え、そして今後は森をどのように育て、どのように持続可能なように活かしていくかということを中心に教育をしていく必要があると考えています。
この地方には、先人達が山に森を作ってきたという歴史もあります。かつては豊橋を無剪定の緑豊かな町にしていこうという計画もありました。今は鈍化していますが、緑を作っていこうという気運が非常に高い地域でもありますので、このような環境啓発活動をこれからも継続していきたいと思っています。
穂の国森づくりの会は一市民団体ですので、その全てを実現できる訳ではありません。今後も行政や教育機関と連携をして、効果的に事業を進めていきたいと思います。やっていかないと。
私達が数回学校に行き、森の話をしただけでは、子ども達にはなかなか理解してもらえません。何度も授業を行い、また山へも行ってもらう、それらを通じて、森の重要さ、森林の大切さを知ってもらいたいと思います。その為にはやはり、行政、企業、地域の力も借りて盛り上げていかないといけないと思っておりますので、これからも穂の国森づくりの会への更なるご協力をお願いをして結びにさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。