【講演】モンゴルのマンホールチルドレンの現状とNGOユイマールの活動
(あまロータリークラブ)
NGOユイマール 代表 照屋朋子様
1.マンホールチルドレンが生まれた背景
モンゴルのマンホールチルドレンは1992年社会主義崩壊以降に現れた。社会主義時代、国家予算の3割をソ連からの援助に頼っていたモンゴルは、ソ連崩壊と共に援助が途絶え、経済破綻を起こした。職を失った大人たちはアルコールに依存し、家庭内で暴力をふるった。その様な暴力から逃れるため、子ども達は家庭外に安らぎを求めた。親が亡くなった者や親に捨てられた者も、-30℃の真冬の中、マンホールに住み始め、その数は3000人~4000人に及んだ。マンホールの中は温水管が通っており暖をとれるものの、ネズミやゴキブリが這い回り、不衛生で危険な環境下であった。
2.保護活動と現在の課題
90年代中頃から海外のNGOが中心となり、子ども達を保護する孤児院や児童養護施設を建設した。現在では、モンゴル国中に43の施設があり、子ども達の保護は十分に出来るようになった。しかし、現在は新たな課題が出てきている。1つは、孤児院の財政基盤の脆弱さである。現在、モンゴル国から補助を受けている施設は8つのみで、それ以外は民間が経営している。職員の人件費や毎日の衣食住費など維持費を捻出出来ず、3年以内に潰れていく施設が後を絶たない。2つ目は、施設から脱走する子どもがいる事である。施設の生活環境に馴染めなかったり、施設でいじめにあったりして、施設よりもマンホール暮らしを求める子ども達が現在も約200名いると言われている。3つ目は、施設卒院後、98%がマンホール暮らしに戻っていることである。18歳になり施設を卒院した後、就職も進学も出来ず、大多数の子どもが再び貧困生活に戻っている。その原因は、子ども達の自己否定感が強く、自らの人生に希望や夢を持てないことが大きく影響している。子ども達は、親に捨てられたり出生が不明であったりするため、自らの存在意義に悩む傾向が強い。また、子ども達は、長い路上生活の中で、様々な事を諦めてきた経験から諦め癖がついており、勉強も何もかも努力しようとしない。更に、例え勉強を頑張ったとしても、奨学金がなく進学の道は途絶えており、将来に希望をいだけない環境になっている。
3.NGOユイマールの活動
NGOユイマールのビジョンは「世界中の子ども達が自尊心をもって暮らすことができ、自己実現を目指せる社会の実現」である。世界を一気に変えることは出来ないため、まずは代表照屋が縁のあったモンゴルから活動を開始している。活動内容は、子どもを単に保護するだけでなく、子ども達の内面を徹底的にケアし、成功体験の積み重ねによる自己肯定感の醸成を行う。そして、18歳以降は、自らの人生を自らで決定できるよう、大学進学のための奨学金によって彼らの自己実現をサポートする、というものだ。
2007年の設立以来、モンゴルダルハン市の孤児院「太陽の子ども達」(男女40人が暮らす。)と連携し、1つの孤児院に腰を据えて、徹底的に活動を行ってきた。自己肯定感を育む取り組みとして、モンゴルの伝統音楽と芸能を使った取組みがある。孤児院内に芸術学校を併設し、子ども達はプロ指導のもと、踊り、歌、馬頭琴・琴、アクロバットを練習する。「1つの曲を覚えることが出来た」「あの楽器が弾けるようになった」という小さな成功体験が重なることによって子ども達は「私でもやれば出来る」という自信を持つようになった。2008年からは、年1度、子ども達を日本に招待して「太陽のコンサート」を開催している。
日本に行ける喜び、日本で初めてホームステイをする経験に、子ども達は変わっていった。音楽の練習という努力を重ね、日本に行く夢を掴んだ子ども達は、高い自己肯定感を覚え、将来の進路にも希望を持ち始める。NGOユイマールは、ゆいまーる奨学金として大学進学のための学費、寮費、生活費を4年~6年間フルサポートしている。結果、孤児院「太陽の子ども達」29名の卒業生のうち、26名がモンゴル最難関の大学に合格、3名が専門学校に進学し、大学・専門学校卒業後の就職率は100%である。2012年度は、国立医学大学に1位で合格した者、アメリカの政府奨学金に合格し4年間サンフランシスコでの無償留学が決まった者も出た。
4.NGOユイマールの目指す社会
6年間の取組みの中で、どの様な環境に生まれた子どもでも、大人がその可能性を信じ、サポートする環境があれば、誰でも可能性を無限に伸ばしていくことがわかった。
18歳以上への支援は、贅沢だ、と批判をあびることも多いが、この取り組みを世界中に拡げていくべく、活動を続けている。
日本の児童養護施設にも30,000人の子どもが暮らし、年間6,000人が卒院しているものの、その7割が職に就けなかったり、職を失ったり、生活保護を受給している。NGOユイマールは、2010年から日本の児童養護施設支援のNGO団体とも協力し、児童養護施設の子ども達の自己肯定感の醸成、自己実現のサポートを始めている。