【講演】認知症サポーター講座 ―認知症を学び地域を支えよう―
(豊橋北ロータリークラブ)
豊橋市役所 福祉部長寿介護課 岡本亜紀乃氏
認知症サポーター講座に入る前に、現在の豊橋市の高齢者の状況等の背景についてお話いたします。
お手元に平成25年の高齢化率(総人口に占める65 歳以上人口の割合)が21%を超える小学校区を示した地図をお配りしておりますのでご参照ください。21%を超えると超高齢社会と言われるものに該当する校区になりますが、多くの校区がそれに該当していることからも分かる通り、豊橋市は高齢者が増えています。これだけ高齢者が増えているという状況に伴い、認知症という病気を抱える高齢者も非常に増えています。
現在、国が発表している認知症の高齢者数は全国で約462万人です。そして認知症ではないが認知症になる可能性が高い方=認知症予備軍が400万人とされており、合わせると65歳以上の約4人に1人が認知症もしくは予備軍という状況です。
このような社会背景を踏まえ、地域に住む方に認知症という病気を理解していただき、認知症になっても安心して暮らせるまちづくりを目指し、こういった取り組みを行っております。
それではこれより講座の方に移りたいと思います。ここからは地域包括支援センターの高須が進行させていただきます。
明陽苑地域包括支援センター 高須美和氏
明陽苑地域包括支援センターに在籍している認知症キャラバンメイトの高須美和と申します。
明陽苑は成田病院系列の老人保健施設内にあります。豊橋市は今年度より市内を大きく3つの地域に分け、18カ所に市から委託を受けて活動を行う地域包括支援センターを設置しました。地域包括支援センターでは主に、「介護が必要とならないためのお手伝い」「体の弱まりのみられる高齢者への家庭訪問」「介護保険のご相談」「高齢者への虐待や、財産を守るためのご相談」の4 つについて対応させていただいており、高齢者の方の総合相談の窓口となっております。必ず「主任ケアマネージャー」「保健師または経験豊富な看護師」「社会福祉士」の3職種の職員が在籍し、専門性を持った職員が高齢者の方のご相談に乗っております。周囲の高齢者の方に関して何か気になることがありましたらお声をおかけください。
本日は認知症サポーター講座として、認知症とはどのようなものかということと、認知症の方への接し方はどうしたら良いのかということを、皆さんと具体的に考えてみたいと思います。
昔は認知症のことを痴呆やボケと言っていましたが、10年程前から認知症と呼ばれるように統一されました。呼び方が変わったことを機に、認知症の方とそのご家族を支え、誰もが暮らしやすい地域をつくっていこうということの一環として、認知症サポーターという考えが生まれました。認知症サポーターとは応援者です。「なにか」特別なことをやる人ではありませんが、認知症のことを正しく理解していただくことは必要です。65歳以上の4人に1人が認知症もしくはその予備軍となってしまっています。更に高齢化が進むと認知症の方も増えていくと考えられます。皆様1人1人が自分自身の問題という意識を持っていただき、偏見ではなく、誰もがなりうる病気として温かい目で見守りをしていっていただきたいと思います。
認知症とは認知症状が現れる病気の総称です。
例えば腹痛の場合、その原因として十二指腸潰瘍や胃潰瘍や胃腸風邪など、様々なものがあります。認知症もそれと同じように考えて下さい。色々な原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなった為に様々な障害が起こり、生活する上で支障が出ている状態(凡そ6 カ月以上継続)を認知症と言っています。
認知症の原因疾患についても様々なデータがありますが、約50%がアルツハイマー病、続いて多いのが脳梗塞や脳出血など脳血管性のもので20%とされています。その他、レビー小体病という脳にゴミがたまっていってしまうものがあり、こちらも20%となっています。
脳の状態としては、脳の細胞が全体的に死んでしまい脳が委縮してしまうのがアルツハイマー病などです。こちらは病気の場所が限定されずにびまん性に全体に広がっている状態です。
血管が詰まって一部の細胞が死んでしまうのが脳血管性の認知症になります。このように、脳が委縮してしまう形と、どこか一部が壊れてしまう形の大きく2 つの形があります。認知症の原因となる病気によって、症状の出方に特徴がありますが、ここからは一般的なことで説明をしていきたいと思います。
認知症と聞くと、物忘れ、徘徊、同じことを何回も繰り返すなどの症状を思い浮かべられるのではないでしょうか。認知症の症状は、中核症状と行動・心理症状(BPSD)の2 つに大きく分類されます。
中核症状は神経や細胞が壊れ、それらが担っていた機能が阻害されることによって直接起こる症状です。
○ 記憶障害
人間には、得られた情報の中から関心のあるものを一時的にとらえておく器官(海馬、仮にイソギンチャクと呼ぶ)と、重要な情報を長期間保存する「記憶の壺」が脳の中にあります。若い時には、大事な情報、関心のある情報、無駄な情報を、イソギンチャクの触手が活発に動き掴んで、その中から必要なものを壺の中に落としていきます。正常な老化の中で触手が短くなっていき、必要な情報もなかなか掴めなくなってしまい、覚えるのに時間がかかるようになります。また関心のある情報を取りこぼしてしまい、情報として蓄積できなくなってしまったりもします。認知症になると、触手が殆ど無くなってしまい、新しい情報を掴めなくなってしまいますが、壺の中にはそれまでに蓄積した情報が残っています。なので新しいことはできないけれど、昔の記憶は残っているということです。更にそれが進行すると覚えていたことすら忘れていってしまうということになります。
単なる物忘れと認知症の記憶障害は違います。物忘れの場合は記憶したことの一部が白く抜け落ちてしまうといったイメージですが、認知症の場合は記憶したこと全てがスぽんと抜け落ちてしまうといった感じになります。昨日の夕食を例にとって説明すると、通常は例えメニューを思い出せなくても夕食を食べたことは覚えており、良く考えていく内に思い出すこともあります。認知症の場合は夕食を食べたこと自体を忘れてしまいます。
○ 見当識障害
時間や季節、場所の感覚が薄れていきます。
○ 理解・判断力の障害
物事を考える力が低下し、周囲で起こっている現実を正しく理解できなくなります。
○ 実行機能障害
計画を立て按配することができなくなります。計画や順序を立てて行動することが困難になりますが、誰かが全体に目を配りながら按配をすれば、1 つ1 つの作業はこなしていくことができる方が多いので、周囲の方の声掛けが大切になってきます。
○ その他
失語=言葉が出てこない、失認=物を見てもそれが何かわからない、失行=身体機能に障害はないのに日常の行動ができなくなる(服のボタンがかけられない・靴をうまくはけないなど)、このような症状が表れます。
認知症の方には色々な症状が表れますが、1 つ覚えておいていただきたいのは、感情の機能というものは失われないということです。情緒・感情面というものは障害を受けません。周囲が認知症の方の行動に対して叱責を繰り返していると、それは嫌な記憶として残っていきます。嫌な記憶というのはなかなか忘れませんので、人間性のごくごく基本なところを否定するといったことが無いようにお願いいたします。
行動・心理症状は、本人が元々持っている性格や環境や心理状態などが作用して起こる症状です。心理症状としては、不安・焦燥、抑うつ状態、不眠、興奮、幻覚・妄想などが表れます。行動症状では、徘徊、攻撃的な言動、異食、不潔行為、危険な行為、ケアへの抵抗などが見られます。
中核症状がある為に起こるストレスや反応によるもので、必ず起こるものではありませんし、認知症の方皆様にそれぞれの症状があり、同じ症状が出るわけではありません。中核症状は病変によるものなので治りませんが、BPSD は周囲の方の関わり方によって改善できるものとなっています。
それでは皆さん、今日は事前にお願いしたものを持ってきていただいてますでしょうか・・・・・・
お願いしたものは何もありません、すみません。ただ、皆さんそう言われて、心の中で「え!? 何か持ってくるように言われてたかな」と思われたのではないでしょうか。認知症の方は常日頃からその様な想いを抱かれています。短期の記憶が無くなってしまうので、「言われたかもしれない」「言われていないかもしれない」「自分はまた何か失敗してしまうのではないか」というような気分をいつも味わっています。認知症の為に失敗してしまったことを責められると、やはり気分が沈んでしまい、元気がなくなっていきます。そしてBPSD の作用で症状がますますひどくなるという悪循環に陥りやすくなります。
認知症になっても心に障害は受けていません。心は豊かに生きています。それを忘れないようにして下さい。今私達が見ている現実と、認知症の方が生きている世界が違うということをご理解いただければと思います。まず認知症の方に共感すること、相手を認めて優しく接することを心がけてください。そして笑顔が大切です。いくら優しく接してくれても、顔に表情が無かったり、声のトーンが怒っていたりすると、それを感じ取ってしまいます。笑顔で優しく声をかけるようにして下さい。
それではここから寸劇で具体的な場面を設定して対応を考えてみましょう。「自分ならどのように対応するか」ということを皆様も考えながらご覧ください。
地域に住んでいる認知症のウメさんが、プラスチックごみの収集日に燃やすごみを持ってきた時に、近所の人たちの声掛けの場面になります。
この様な場合でも、叱責するような口調で注意するのではなく、笑顔と優しい口調で声をかけていただきたいと思います。
ただ「駄目」と言われても、本人は何が駄目なのか分かりません。分かりやすい言葉で声をかけるようにして下さい。また記憶障害のある方や判断力の弱っている方に、多人数や早口でまくしたてるようなことをすると、それに圧倒されてしまい、何を言われているのか理解できないことが多いです。認知症の人へ対応の心得として「3つの『ない』」があります。
「驚かせない」、「急がせない」、「自尊心を傷つけない」です。
これを覚えておいてください。
具体的な対応としては、「まずは見守る」ということです。これはその時1 回ということではなく、暫く行動を見守るということです。そして「余裕をもって対応する」ことです。自分の心に余裕が無ければ、余裕を持った対応もできません。そしてできれば「声をかける時は1 人で」お願いします。また「後ろから声をかけない」ということも大切です。後ろから急に声をかけられると驚きますし、聞こえない場合もあります。耳が遠い方は車のクラクションでも後ろからだとどちらから鳴っているのか分からない時があるそうです。後ろからは声をかけずに、相手の視界に入った上で、「相手に目線を合わせて優しい口調で」声をかけて下さい。正面からですと耳の不自由な方でも聞き取っていただくことが多いです。そして「おだやかに、はっきりした滑舌で」話してください。耳の遠い方でもはっきりした口調で話しかけられると聞こえる場合があります。女性の高い声や極端に低い声は聞き取りにくいということもありますが、できるだけゆっくりはっきりした口調で対応してください。そしてこちらの言い分があるのと同様に、相手にも言い分があります。「相手の言葉に耳を傾けてゆっくり対応する」ようにお願いします。それが解決の1 つの突破口になることもあります。
最後に認知症の人と接する時の心がまえです。
認知症の方を独立した個人と考え、認知症も1 つの個性だと思っていただきたいです。「認知症の方」ではなく、認知症という個性を持った近所の方、地域の方だととらえることが大切です。認知症の方は自分の障害を補う「杖」の使い方を覚えることができません。周囲の方の手助けというものが必要となってきます。認知症からおこる障害を理解していただいた上で、さりげなく、自分ができる範囲で、援助をしていただきたいと思います。私達サポーターが「人間杖」となって、その人を支えるということが、認知症サポーターの意義となります。施設などのバリアフリーが進められ、体の障害を持った方には住みやすい環境になってきたと思います。しかし目に見えないところで認知症という障害を患ってしまった方には、皆さんの方から心のバリアフリー化を進め、心を開いて接していくことが大切です。
【質疑応答】
Q. 徘徊と思われる人を見かけたらどうしたら良いでしょうか。
A. これはなかなか難しい問題で、人によっては目的をもって徘徊している場合もあります。例えば買い物に行こうとして分からなくなってしまうということもあります。まずは「どこへ行かれるのですか」という風に声をかけていただき、知っている方でしたら家にうまく誘導してあげて下さい。その方が全く知らない方で、相手の方からも住んでいる場所や名前を伺う事ができなかった場合は、警察にお願いするのが一番良いかと思います。
余りかかわりたくないので見て見ぬふりをしてしまうと、その方が事故に遭ってしまったりして更にに大変なことになってしまう場合もありますので、自分達が声をかけるという勇気も必要かと思います。
また、豊橋では「認知症SOS ネットワーク」というものがありますのでご活用ください。
Q. 認知症にならない為にはどうすれば良いでしょうか。
A. 新しいことにチャレンジしたくなくなる、家に閉じこもりがちになるのはよくありません。同じことを繰り返すことも脳の刺激にはなりません。
よくお勧めしているのは、南極に行く方法を考えることです。実際に行かなくても良いので、その方法を調べてみてください。または実際に創らなくても良いので、紙の中で美味しい料理を作ってみることもお勧めです。その為には色々なことを調べて考えることが必要となってきます。それが認知症の予防になります。認知症を発症すると、考えること、按配することができなくなります。新しいことにチャレンジして、脳に刺激を与えるということが大切だと思います。