こんばんは。
今宵はいかがお過ごしでしょうか?
やっと皆さんにお目にかかれて光栄です。2018年ロータリー国際協議会にようこそお越しくださいました。昨日の朝、最初に到着したガバナーエレクトご夫妻の姿を目にしたとき、特別な感慨を覚えました。ジョン・ヒューコ事務総長と一緒にロビーに立っていた私は、「いよいよだな」と口にしました。
すると、ジョンが「ユーチューブの動画みたいですね」と言うのです。
「何が?」と尋ねると、彼は次のように言いました。
「よくユーチューブの動画でありますよね。コントラバス奏者が広場の中央に歩み出て、突然ベートーベンの第九を弾きだす。最初はコントラバスだけかと思っていたら、チェロ奏者が出てきて一緒に弾きはじめ、次にファゴット奏者が加わる。そして弦楽器、ほかの木管楽器と次々と加わっていく。みんな普段着で、大衆に交じっているけれど、あたりにいた普通の人たちが、あっという間にオーケストラや、コーラスになって、その場に音楽があふれ、まったく違う空間になってしまう、そんな動画です」
ああ、見たことがあるよ、誰かが送ってくれたことがあると思う、と私が答えたとたん、また違うご夫婦がロビーに入ってきました。その後にすぐ、また別のご夫妻が到着しました。
まるで音楽が聞こえてきそうな光景でした。
昨日と今日、皆さんは、ロータリー世界の隅々からやって来ました。そして今、それぞれの役目を果たすために、ここに集まっています。
私たちは今晩、ともに旅路につきます。しかし、このようになるとは、6カ月前には想像もできませんでした。
今年度の7月1日、私と皆さん、そしてロータリーのすべての人が、今晩ここに立つのは別の人だと思っていました。サム・オオリ会長エレクトは、私の友人、そしてアフリカのロータリアンにとって英雄であり、その明るい笑顔と優しい心で大勢に愛されていました。自身を「救いようのない楽観主義者」と呼び、人間の闇を多く目にしたにもかかわらず、世界に存在する善、そしてその善を輝かせるロータリーの力を信じてやみませんでした。
私たちは、サムの仕事を引き継ぎながら、この数カ月で学んだ教訓を生かして前進します。それは、ロータリーの活動は、誰であれ一個人とともに始まるものでも、終わるものでもないということです。
私たちに与えられた責任は、可能な限り、効果的かつ効率的に奉仕することによって、情報の透明性と説明責任を重んじながら、そして、意義があり、持続可能な方法で、できるだけ多くの人により良い変化をもたらしながら、先人たちの活動の上に築き、将来のために堅固な土台を築くことです。ロータリーで会員が最高の経験ができるように、そしてロータリーが、今年度や次年度だけでなく、ロータリーでの私たちの活動、ひいては私たちの生涯を超えて成長し続け、世界に役立っていけるようにしながら。
それが、ロータリーのリーダーとして私たちに託された仕事です。
この思いは、ロータリーの新しいビジョン声明をつくるためのインスピレーションとなりました。この声明は、私たちが築きたいと願うロータリーを表しています。
「私たちロータリアンは、世界で、地域社会で、そして自分自身の中で、持続可能な良い変化を生むために、人びとが手を取り合って行動する世界を目指しています」
ロータリーで、私たちは手を取り合います。なぜなら、協力すれば、一人よりもずっと強くなれると知っているからです。
私たちは行動します。なぜなら、ロータリーは夢想家ではなく、実行する人の集まりだからです。
私たちは持続可能な変化を生みます。私たちの活動が終わった後にも末永く続く変化を。
世界での変化、地域社会での変化は、私たちが決して会うことのない人や、最愛の人を含め、すべてに影響します。
そして、おそらく一番大切なのは、自分自身の中での変化でしょう。
マザーテレサは、かつてこう言いました。世界を変えたいなら、うちに帰って家族を愛しなさい。まずは自分を変えることから始め、そこから外に向けた努力をしなさい、と。これは、ロータリーという組織を支える際に、私たち全員が心に刻むべきことです。
ロータリーの会員数は、この20年間ずっと120万人程度で低迷しています。成長しておらず、会員の高齢化が進んでいます。活動を通じて変化をもたらすための知識や意欲をもたないクラブが、あまりに多すぎます。ロータリーが世界でどんな活動をしているのかを知らず、ロータリーと財団のプログラムを知らないクラブ、参加方法がわからないクラブもあります。
ロータリーは会員制組織です。ですから、奉仕活動を通じてより良い世界を築きたいと願うなら、会員を大切にしなければなりません。
すべてのクラブの問題を一人で解決することが皆さんの仕事なのではありません。皆さんがここに来たのは、そのためではありません。ここに来た目的は、変化を生み出すことへの意欲を、クラブ会長と地区内ロータリアンの心に芽生えさせるためです。もっと何かをしよう、可能性を最大限に発揮しようというやる気を引き出し、それぞれのやり方で前進できるよう手助けすることが皆さんの仕事なのです。
バハマ人である私にとって、海は常に特別なものでした。海は、「隔たり」と「つながり」の両方を象徴します。祖国の島の岸に立つとき、海の向こうの何千マイルも離れた岸に誰かが立っています。土地、国、言語は違うかもしれませんが、同じ海を共有しているのです。
このつながりの感覚は、インスピレーションであり、届かなさそうでありながら、実は思うよりもずっと近いものへのあこがれです。大きなことに挑戦しようというインスピレーションを、クラブやほかのロータリアンに与えてください。自分よりも長く、後世にも生き続けるものを生み出すために、行動を起こす意欲を引き出していただきたいのです。
かつてサン=テクジュペリはこう表しました。「船を造りたいなら、木を集めさせたり、作業や任務を割り振るのではなく、はてしなく続く広大な海への切望の心を培うことから始めなさい」
皆さんの仕事は、船をつくることではありません。より良い世界をつくることです。より良い世界をつくりたいなら、ロータリアンの魂を呼び起こし、その能力と可能性、そして私たち一人ひとりの中にある切望の心を引き出さなくてはなりません。
より良い世界をつくりたいなら、プロジェクトを計画したり、任務を割り当てたりすることから始めないでください。
インスピレーションから始めてください。
ロータリアンの魂、すなわち、より良い世界への切望、そして、より良い世界をつくることは可能だという、心の奥深くにある真の自覚を呼び起こすことから始めてください。
それを今晩、この場で一緒に、「インスピレーションになろう」という2018-19年度テーマとともに始めていただきたいのです。
私たちの標語「超我の奉仕」からインスピレーションを得てください。そして、ロータリーを通じて行動するよう、人びとにインスピレーションを与えてください。
言葉で、そして行動で、インスピレーションを与えてください。今日実行すべきことを実行し、明日に、そして自分がロータリーに入会したときよりも、去るときにもっと強くなれるロータリーを築いてください。
インスピレーションを与えるために私ならどうするか、と質問したい方もいるでしょう。そこで、皆さんに覚えておいていただきたい4つの要素をご紹介したいと思います:ロータリアン、クラブ、地域社会への愛と共感の心を示す必要があります。ロータリーへの熱意、そして世界を変えることへの熱意を、相手が感化されるほど強く伝える必要があります。変化の推進者となり、これまでよりもっとがんばろうという大胆なチャレンジに挑む必要があります。そして、指示するのではなく自らの行動をもって、ロータリアンに模範を示す必要があります。
変化をもたらすインパクトのある活動を通じて、ロータリーが地域社会の「インスピレーション」となることを願っています。真のニーズを調べ、積極的な参加を促し、計画し、他と協力することに時間を注ぎながら。
強い組織を築くには、ロータリーが何であり、どんな活動をしているのかを人びとに知ってもらうために、もっと効果的になる必要があります。ソーシャルメディアを最大限に活用し、人びとが耳を傾けているところでメッセージを発信しなければなりません。
若い世代のやる気を引き出すために、もっと努力する必要があります。ロータリーの生命力としてローターアクトを築き、会員がスキルとリーダーシップ能力を身につける効果的な方法をクラブに提供しなければなりません。
やる気を高めたクラブは、積極的に活動します。前進を阻んでいる障壁を取り除く必要があります。自分たちのニーズに合った新クラブを立ち上げ、ローターアクターが自分たちのロータリークラブを立ち上げ、すべてのロータリアンが自分に合った方法で柔軟に奉仕できるようにしなければなりません。
ロータリーでは、何がインスピレーションとなるか、つまり、何が刺激となり、前進の活力となるかは、人によって違います。
私たちの多くにとって、この30年間にロータリー全体を一つに結びつけてきた活動、「ポリオ撲滅活動」がインスピレーションとなってきました。
今はポリオ撲滅活動の正念場であり、新規症例があるたびに、それが史上最後の症例となる可能性があります。
30年前、野生型ポリオウイルスによってまひ障害を発症する人は、毎年推定35万人、そのほぼすべてが子どもでした。
4年前には、ポリオによって359人の子がまひ障害を発症していました。
3年前には、この数は74人でした。
2年前には37人。
そして昨年は21人でした。
2018年の現時点までに、ポリオを発症した子どもは一人もいません。
長年にわたって毎年、撲滅活動の進展を測ってきたこの数字が、今は「ゼロ」なのです。
このままの数字であり続けてほしいと、皆が願っています。しかし、最後のポリオ症例が今年であれ、来年であれ、または過去の症例が最後であったとしても、それが私たちの仕事の終わりを意味するわけではありません。ロータリアン全員がこれを理解することが極めて重要です。滅認定委員会がポリオ撲滅を正式に認定するまで、すなわち3年間、川や下水、または人の体内からポリオウイルスが一切発見されなくなるまで、ポリオ撲滅活動は終わらないのです。
それまでは、今行っているすべてのことを続けなくてはなりません。
毎年4億5000万人の子どもへ予防接種を続けなければなりません。
サーベイランス(監視)を続け、地域社会にまひを発症した子どもがいないか、人びとが使用する水にウイルスが含まれていないかどうかを確認し、私たちが現在支援しているすべての検査所とそのスタッフ、インフラを維持していかなければなりません。
こうした活動をやめてしまったら、予防接種率を下げてしまったら、ウイルスが隠れている可能性のあるところから目を離してしまったら、すべてが水の泡となる危険があります。だからこそ、最後までやり遂げるために、目標とする募金をすべて集める必要があるのです。
ポリオの撲滅は、一つの疾病がなくなること、そして、ロータリーの新しい章の始まりを意味します。
その章では、奉仕における持続可能性が、私たちのあらゆる活動の前面と中央に位置づけられるでしょう。
「持続可能性」はロータリーで合言葉となりました。私たちは、持続可能な活動成果をもたらし、世界をより良くしたいと願っています。ロータリー内部やロータリアンのためだけでなく、世界全体のあらゆる人たち、あらゆる世代のために、私たちにできることがあります。
真剣にそう思うなら、10年、20年、50年、または100年後に世界がどうなるかを真剣に考えているなら、今日の世界の厳しい現状を直視する必要があります。
汚染、環境の悪化、気候変動は、6つの重点分野のすべてにおいて、ますます影響を与えています。
環境汚染は、毎年、170万人の子どもの死亡原因となっています。
現在、40億人が、少なくとも年に1カ月間、深刻な水不足を抱えて暮らしており、地球温暖化が進むにつれその数は増え続けています。
私が住む国では、国土の80%が海抜1メートル以下です。現在の予測によると、2100年までに水面が2メートル上昇します。これは、私の祖国が、ほかの多くのカリブ海諸島や、世界中の沿岸都市、海抜の低い地域と同様、50年後にはなくなってしまうことを意味します。
ロータリーが、問題が起きてから対応するのではなく、先手を打つことのできる組織となれるよう、皆さん全員に「インスピレーション」になっていただけることを願っています。
真に持続可能な奉仕とは、私たちが行うすべての活動を、より大きなシステム、より大きくグローバルな生態系の一部として見ることを意味します。それは、強く、これからやって来る変化に対する回復力がある地域社会を築いていくことです。
それは、今行っている奉仕が、明日、そして後世にもずっと、人びとのより良い生活につながっていくよう、あらゆる手を尽くすことです。
これを実現するために、「インスピレーション」になってください。
ラブと地区への「インスピレーションになろう」。ロータリーでどんなことができるのか、どんな存在になれるのかを、示してください。
国や地域社会への「インスピレーションになろう」。手を取り合って行動し、持続的な変化を生むことによって。
「インスピレーションになろう」。ご一緒に、世界にインスピレーションを与えることができます。
ご清聴ありがとうございました。
編集者注:上記内容はラシン会長エレクトが準備した原稿に基づいています。実際の講演内容と若干異なる箇所があることをご了承ください。