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Rotary Moment vol.1
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2019.07.01
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「ポール・ハリスにこころを寄せて」
この写真は、ニューヨーク・ブロードウェイ49丁目にあるアンバサダー・シアターです。トロント国際大会後に、かなり以前に勤務していたニューヨークに立ち寄り、ミュージカル「シカゴ」を観劇しました。1975年にオリジナルがブロードウェイで公演され、1979年にはウエストエンドに進出し公演され、1996年ブロードウェイで再演されています。再演ミュージカルではブロードウェイ史上アメリカでは最長。海外作品も合わせると「オペラ座の怪人」「キャッツ」に続き第三位のロングラン公演の記録をもつ人気ミュージカルです。
このミュージカルは、夜の街にジャズの音色が響き、マフィアが暗躍する1920 年代、禁酒法時代のアメリカ・イリノイ州シカゴを舞台に描かれており、実際に起こった事件を取材した女性記者「モウリン・ダラス・ワトキンス」がこの事件を基に「シカゴ」の脚本を執筆したという有名な話です。殺人を犯した女性、自ら犯した罪にそれぞれの解釈を加えて無実を訴える刑務所に収容されている女性殺人囚人たち、見返りを渡せばそのお礼をするという女性看守、偽りの過去と正当防衛の作り話を大胆にでっち上げマスコミをも巻き込み無罪を勝ち取る凄腕弁護士などが登場し、そのキャストを見てもいかに当時のシカゴが政治、社会、マスコミそして司法も腐敗していたかがわかります。
このミュージカル「シカゴ」をとりあげたのは、この虚飾と退廃に満ちたシカゴでポール・ハリスが立ち上げたロータリークラブがなぜ成長していったのかがミュージカルの背景から推測できるからです。ポール・ハリスはこの腐敗したシカゴで弁護士活動を続けるなか、ロータリークラブを創設し職業を通しての奉仕活動で、道徳や品位など地に落ちた世のありさまを感じて、後のロータリーの中核的価値観となるIntegrity(高潔性)の必要性を感じロータリー精神に植え付けたのでしょう。このミュージカルを見ればロータリークラブが成長していった要因が垣間見られます。
このミュージカルは映画化もされていますので、ロータリークラブが中核的価値観を取り込みながら成長していった当時のシカゴの背景を、ぜひ皆さまにもご覧いただきたいと思います。
ガバナー 伊藤 靖祐
GOVERNOR’S MOMENT
ー 日本人はなぜロータリーに惹かれたか、そして今は ー
1905 年に生まれたロータリーは1920年に日本に入ってきました。そして名古屋には1925 年に誕生し、その子クラブとして1935年に岐阜、1936年に四日市に設立されました。しかし、第二次世界大戦で国内のロータリーはなくなり、1949年に国際ロータリーに再加入しました。ロータリーは誕生から1920年代(前ページ「ポール・ハリスのこころに寄せて」参照)にかけて、一番よく議論され組織としての構造や性格が多くの人々にとって納得性のあるものに固められていったと思われます。その頃、米山梅吉翁によって日本人に紹介され賛同されました。
特に職業の基盤に奉仕の概念を置く考え方は魅力的であったのではないでしょうか。また、自治の精神にも惹かれたのでしょう。お上に従っていればよかった時代から、近代化のためには自分で考え行動する必要があり、民主主義の考え方とともに、自立の気風に満ちたロータリーは日本の実業界のリーダーに受け入れらました。また、英語のやりとりが新鮮であったと推測できるだけでなく、世界の同じような立場の人たちが同じ理念で仲間となることも魅力であったのではないかと考えます。ロータリーを通じてグローバルに考えること、世界とつながることは現在よりはるかに魅力的だったはずです。
ロータリーと職業についてもう少し深堀してみたいと思います。1906 年1月に制定されたシカゴロータリークラブの定款には、会員の事業上の利益の促進と、会員同志の良き親睦が記されていただけで、奉仕の概念は入っておりませんでした。1908年にロータリーの歴史では有名なシェルドンがシカゴクラブに入会し、奉仕の概念をロータリーに提唱しました。すなわち職業奉仕理念です。自分の儲けを優先するのではなく自分の職業を通じて社会に貢献し、結果として自分も報いられる、そして継続的な事業の発展を得るという考え方です。He profits most who serves best. ( 後にHe がThey に変えられました) という第二の標語が、みんなのためになるかどうかを調べられる四つのテストとともに、熱狂的に受け入れられたのでしょう。20世紀初めには日米ともに所得格差は非常に大きくごく一握りの人々に富が集中していたのが、ロータリー精神発展期である1920年代、1930年代にこの格差がリーダーの理想主義によって急速に狭まりました。しかし、アメリカでは黄金の1960年代が過ぎ、1970 年代終わり頃から再び格差が新自由主義の名の下に大きく広がり始めました。日本も経済構造的にはアメリカの影響を受けていますが、所得格差の面では、まだ平等性が残っていました。このことと並行するように、アメリカのロータリーで盛んであった職業奉仕の理念が高潔性という言葉を残して下火となりましたが、日本では職業奉仕こそロータリーの金看板という考え方が強く受け継がれています。しかし、今の国際ロータリーの考えはそうではありません。職業奉仕は社会奉仕の一部という考え方でもあります。
今後、日本人はロータリーの何に魅力を感じ惹かれるのでしょうか。このGOVERNOR’S MOMENTを読んでいただき、令和の時代に各クラブでロータリーの魅力を作っていただき、“世界で良いことをする” MOMENT になっていただきたいと切に願います。一年間よろしくお願い申し上げます。
国際ロータリー第2760 地区
2019-20 年度ガバナー
江南ロータリークラブ所属 伊藤 靖祐