|
|
*プロローグ 土曜日の夕刻帰宅すると、当院のクライアントの高校教諭・仲田先生より、1通のFAXが届いていた。「先生、隣接の大学の、池のアヒルのくちばしに、数日前より太い紐の様な物が絡まり、餌が食べられません。行政機関に救出を依頼しましたが、すべて断られました。「“助けてください”」。 消防署「人命以外は出動しない」、動物園「大学の構内なので…」、「野性動物は管轄外で…」動物愛護センター。話にならん、何たるお役所仕事、先生たちはカンカン。しかしながら、現実の問題としてどうしよう。かくしてその後、冬の池に頭から転がり落ちるはめとなる、救出劇へと突入していく事にあいなった。 日暮れ間近の水面には、2羽のアヒルが游いでいる。「まだ元気そうだなー」「衰弱の様子もない、体の張りも有るな」。現場は一応大学の敷地内、厳重にフェンスで囲まれ、土、日は大学の管理責任者とのコンタクトが取れない。日曜にもう一度、被害アヒルの状態を確かめ、ほとんど変化がないことが確認したので、救出作戦は月曜と決した。 (写真1) *作戦開始第1日 |
写真1 猿ぐつわ状に何か赤い物がはまってる・・・ 苦しそう・・・何だろう? (中日新聞社写真部提供) |
*第2日 この騒動、地元紙などの朝刊に掲載されたことより、波紋が大きく広がり、杜若高校カヌー部学生をはじめとし、ダイバーなど、多くのボランティアの方々が参加。報道陣やギャラリーも大変な数に膨らみ、お祭り騒ぎとなる。 カヌー3艇、野球用バック・ネット2張り、タモ(陸上5ヶ所、船上5個)、ダイバーを含む総勢約20名が当日の布陣。救助作戦はミーティングの後、午後1時より開始された。 池の北端は浅瀬なので、潜水逃避が防ぎ易い、そこにネット2張りをセットし、3艇で追い詰め、その間隙をダイバーが埋める。昨日あえなく落下の中村先生と、同僚の大林先生(ご婦人)は、本日はウエットスーツ姿で気合十分。一艇は、一人乗りのカヤックで小回りが利く。今日こそ救出するぞと、歓呼の声に送られて総員船上の人となる。 作戦開始約30分、追い詰めるが、何処かの隙間からか巧みに潜水脱出、とんでもないところで、ポカーッと浮上する(写真2)。ますます増えたギャラリーが、その都度大騒ぎ、いい大人がさんざん振り回され、とんだ道化を演じさせられる。 その時痺れを切らした高校生が、カヌー横を潜水するアヒルめがけて飛び込んだ。驚いたアヒルが慌てて浮上したのが、何と中村先生の真横。かくして、被害アヒルはタモですばやくすくい上げられ、大歓声の中、救出作戦の第一幕が下りた。中村先生の笑顔とガッツ・ポーズが爽やかだった。タモの中のアヒルは、小生こぎ手のカヌーの後座で、大林先生に宝物の様に大切に抱きかかえられ、応急処置の往診鞄のある対岸へと向かった。(写真3) カメラの放列の中での健診で、首にさるぐつわ状に掛っていたのは、プラスチック製のボトル・ホルダーの蛇腹を縮めた様な物体(写真4)。心配された後頭部の損傷は、羽毛で保護され問題なく、口腔内では、舌根部に軽度の絞扼創を認めたに過ぎなかった。創口消毒、ロング・アクティングの抗生物質を胸筋に注射し、万来の拍手の中、発見者、仲田先生の手でやさしく池に戻された。(写真5・写真6) 岸から10mも離れた時であろうか、アヒルは幾度も首を伸ばし、また、口をゆすぐ様な仕草を繰り返した。数日の窮屈な姿勢から解放された喜びを、全身で示す被害者(?)に、また、拍手が起こった。 *エピローグ |
写真2 3艇とダイバーの包囲・・ネットで巻き込み・・それでも逃げる。 ・・・そうだ、奴は水中でも目が見えるのよ。 (名古屋大学付属高校提供) |
写真3 社若高校カヌー部員(アテネ五輪出場)痺れを切らし アヒルに向かってとび込む・・・奴はビックリして急速浮上・・・ 中村先生“御用” ヤッタァ〜 ヤッタァ〜 ギャラリーの大歓声・・・・・・・ (中日新聞社写真部提供) |
写真4 こんな物が・・・これは何でしょう? プラスチックでジャバラがそのまま硬化したもの・・ 放っておくと、命取りでした。 (鷲塚貞長撮影) |
写真5 持続性の抗生物質注射 (名古屋大学付属高校提供) |
写真6 第1発見者 仲田先生の手でソーッと池に戻す 「変なものにくちばし突っ込むんじゃありませんよ」 「元気でねーーー」 (名古屋大学付属高校提供) |
筆者略歴 <平成16年12月現在> ワシヅカ獣医科病院・院長、前(社)名古屋市獣医師会・会長(7期15年)、元(社)日本獣医師会理事、元中部獣医師会連合会・会長(2回)、(社)日本獣医師会…薬事対策委員会委員、獣医事対策委員会委員、獣医事審議会委員、学術教育研究部会委員などを歴任 * 昭和51年 犬脳下垂体前葉細胞の電子顕微鏡による機能的分類により獣医学博士授与(37歳) |
▲上へ戻る |