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「いびき・睡眠時無呼吸症候群」は、一昨年2月26日の新幹線岡山駅での居眠り運転による停止事故以来、マスコミでも頻繁に取り上げられ、医療関係者のみならず一般の方々の関心も最近とみに高くなっています。 この事故の運転手は体重が約100kgの巨漢の方でした。事故の前夜、約9時間の睡眠をとっていたとのことでしたが、実際には居眠り事故を起こしてしまったのでした。私ども専門医から見れば、9時間の充分な睡眠とはいえ、極めて浅い睡眠のため熟睡しておらず、睡眠時無呼吸も重度であったことが居眠りの原因と考えられました。 ロータリアンの方々の中にも「いびき」がひどく、本症候群ではないかと心配をしておられる方も少なくないのではないかと推察しています。 そこで、この「話の泉」への執筆依頼を戴いた機会に「いびき、睡眠時無呼吸」について少々述べさせていただきます。 いびきと本症候群とは密接な関係があります。大いびきが毎晩あれば本症候群の可能性が強く疑われ、逆に、本症候群を認めるときは、いびきは必発であります。 1976年、米国の有名なスタンフォード大学の睡眠学の大家であるギルミノー教授(写真1:左)が本症候群は「睡眠7時間中に持続時間10秒以上の換気(呼吸)の停止が30回以上存在するもの」と定義をし、以来この症候群は大変注目されるようになってきました。 本症候群は大いびき以外には、眠りが分断されるために睡眠が浅くなり、早朝に頭痛を起こしたり、日中の疲れがひどい、気分がすぐれない、根気がないなどの症状が出現します。さらに、昼間傾眠(居眠り)を生じる事も稀ではありません。 とくに、居眠り運転による自動車事故は深刻な被害をもたらします。本症候群の患者が引き起こす交通事故は、カナダでは健康人の2倍、米国では7倍というデータもあり、大きな社会問題にもなっています。 本症候群の頻度は、本邦では全人口の男性では3.3%、女性では0.5%。米国では男性の4%、女性の2%という報告もあり、有病率が高く、21世紀の国民病とも言われています。さらに、習慣性いびき症の人は本症候群の数倍に上り、本邦で、男性の21.3%、女性の7.6%という報告もあり、高頻度に認められます。これらいびき症患者のいびき発生のメカニズムは、図1に示していますが、上気道の軟口蓋や舌の付け根部分が狭くなり、吸気のとき発生するのが一般的です。また、本症候群もいびきと同じ部位が狭窄をおこし、無呼吸の原因となります。 また、本症候群は循環器系への大きな影響があり、とりわけ高血圧との関係が密接です。睡眠中の血圧変動が大きく、高血圧の人が高率にみられます。私共がこれらの患者さんに手術を行った結果、血圧が下降し、高血圧が治ってしまったというケースも少なからず経験してきました。さらに、不整脈や心筋梗塞の合併症が高く、放置するとこれらの合併症により、命を縮めるとも言われています。 したがって、大いびき、睡眠時無呼吸、昼間の傾眠、高血圧などの循環器障害、さらに高度肥満などがあれば放置することなく、いびきや睡眠時無呼吸を取り扱っている専門医への受診を是非お薦めします。 |
写真1 左がギルミノー教授。その隣が筆者 (1997年ギリシアでの睡眠時無呼吸会議のシンポジウム後 の昼食会にて) |
図1 |
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